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仮面ライダー電王〜千の偽り、万の嘘、たった一人の君の幻〜55
「平気だって!!それに…時間…がないのよ」
重たそうに左足を引きずりながら、彩は歯を食いしばる。
「それにしたって、もう"始まりかけてる"じゃない…このままじゃ…」
ぴょん吉が心配そうに左足に目をやる。
彩はぴょん吉の言葉に視線を落とした。
「関係ない…バレンタインまであと五日…それまで、もてばいい」
彩は何かを決意したようにすっと視線をあげた。その瞳はまっすぐ目の前だけ見つめていた。
ぴょん吉はそんな彩をじっと見つめた。
契約を交わして1ヶ月…彩の性格は大体分かる。度が過ぎるくらい真っ直ぐで、自分のことなんか放っておいて人の心配ばかり、そして、自分の痛みを決して表に出さない…
「…良太郎ちゃんに…全部話しちゃったら?あの事故のことも、契約のことも。今のままで、彩一人じゃ無理よ…」
「絶対ダメ!!」
彩はぴょん吉の言葉を遮る。その勢いにぴょん吉は声を詰まらせてしまった。
「本当のことなんて言えないよ。アイツが…カイが知ったら何するか分かんないよ。これは私の問題なの。良太郎を危険な目にあわせたくない…失いたくないんだ」
段々とか細くなる声…
これが彩の本心なんだろう。
「…彩」
ぴょん吉は彩の必死さに言葉を失う。
…そうだ…
彩はため息を一つ吐くと歩を進めた。
…良太郎とウラにはお店を手伝ってもらってはいたけど、修との約束のことも誰より分かってくれてる…けど…
…けど…
…本当のことなんて、言えない…
…アイツは優しすぎる…もし、本当のこと言ったら良太郎とウラは…
その先を想像して、彩は胸に重たいものが積もっていくのを感じた。
「あら??」
その時、ぴょん吉が何かを見つけたようだ。道の先の川沿いに長い耳をむけると、右手を額にあてて目をこらしている。
「あらあら!!良太郎ちゃんに、ウラくんまでいるわよ」
川沿いに腰をおろしている良太郎と、その横にいたウラタロスを見つけたようだ。
「彩!!アンタはゆっくりで良いわよ!!」
そう言うとぴょん吉は嬉しそうに走っていってしまった。
「薄情なヤツ…」
彩は呆れながらも、ぴょん吉らしい行動に思わず吹き出した。
彩もぴょん吉に続こうと一歩踏み出す…が、彼女は表情を強ばらせて動きを止めた。