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もみじ ハッピーエンドじゃないと許せない 19
「あの・・・」
椛が、おずおずと口を開いた。
「ん?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
椛は、何か言おうとして口を開いたきり動かない。
「なんだ?何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
「・・・・・・」
「・・・早くしろ」
「・・・あの・・・和人さんは・・・誰か・・・好きになったこと・・・ありますか・・・?」
「・・・・・・」
それが、椛の言いたいこと・・・いや、聞きたいことだったのか・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
椛は赤い顔をうつむかせ、モジモジしている。
「・・・・・・」
「好きになったことは・・・ある」
「・・・・・・」
椛は、複雑な表情で俺を見た。
「お相手は・・・どんな・・・人ですか・・・」
「・・・・・・」
俺の初恋の相手は、たぶん・・・静流だ。
幼いころの俺にとって、静流は綺麗で優しいお姉さんだった。
それはただの憧れだったのかもしれないが・・・。
「・・・・・・」
俺は、静流に自分のお嫁さんにしてやると言ったことを思い出した。
遠い遠い、遠い昔に・・・。
「・・・・・・」
しかし、今では俺と静流の間には身分違いなどという言葉では片付けられない大きな溝がある。決して埋まることのない溝が・・・。
「・・・和人さん?」
「・・・椛」
俺は、椛に声をかけられ我に返った。
「それで・・・今は・・・誰か・・・?」
「・・・いや。俺はもう、誰も好きにならない」
「・・・・・・」
「誰も・・・」
俺は、椛から目をそらした。
誰かを好きになったところで、その相手と添い遂げることなど俺にはできない。
俺は、親父によって家柄にふさわしい妻が与えられるだろう。
どうせ愛のない生活をするのなら、愛など知らないほうがいい。
愛する人を守ることなど、俺にはできない。
俺にできるのは、傷つけることだけだ。