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仮面ライダー電王〜千の偽り、万の嘘、たった一人の君の幻〜29
卵と砂糖の甘い匂い…きつね色に焼けたクッキー…じいちゃんの大きい手…アイツの笑顔…
みんな、大好きだった…
みんな、当たり前にそこにあって、ずっとずっとすぐ隣にあるもので、ずっとずっと守っていこうと心に誓っていた。
ずっとずっと…守っていけると思ってた…
【お前なんて必要ないんだよ】
修は顔をしかめると缶コーヒーを一気に飲み干した。
昔のことを思い出すと、決まって嫌なヤツの言葉が頭の奥から染み出してきて、頭の中をどす黒く染める。
切れ長の目をさらに細めると、首もとまで流れる黒髪を乱暴にかきあげた。
「関係ねぇよ…もう…」
内から染みる昔の記憶、イライラ、いろんな感情がもどかしくて、修は空の缶を握りつぶした。
「…だからごめんってば!!もういい加減勘弁してよ。帰りにプリン買ってくからさ。ね?」
修の後ろを携帯電話で喋りながら男が通りかかった。…電話の相手は姉…根元薫だった…
「あ゛っ!!!修さん…すっ、すいません!!」
薫は修の存在に気付くと急いで携帯電話を切り、青ざめた顔で頭を下げた。
「修の前でお菓子の話は禁物っしょ」
修の脇から和也がひょっこり顔を出した。明るい茶髪を軽く立て、くっきりした目元…和也は悪戯っぽく笑ってみせた。
修はゆっくりと薫に振り返る。
薫は怖くて頭を上げることができなかった。
町の人々に不良と言われるグループならいくらでもいた。でも、自分達ほどの人数で統制されているグループは他にないほど大きかったのだ。その中で一番強いのが古賀修だった。グループ自体をまとめているのは修といつも一緒にいる鈴木和也だったが、その強さと人望の厚さから実質的に修がトップだった。
…本人は全くその気はないようだが…
そして、グループ内で修の前ではお菓子の話はタブーになっていた…今ではその理由を知る者は少ないのだが。
修はゆっくり歩き出すと、薫のすぐ横にたった。薫は震えが止まらない。
「…気にしてねぇよ」
修はボソリと呟くと、薫の肩にポンと手を置くとそのまま歩いていってしまった。
薫はホッと安堵のため息を吐いた。
「修は優しいねぇ〜」
再び薫の顔に緊張が走る。